業務委託契約と交通費の請求
『業務委託』を受けると取材先やクライアント先へ移動することがあります。そのときにかかるのが『交通費』です。この『交通費』は、委託者と受託者のどちらが負担するのでしょうか。詳しく解説しましょう。
費用負担の原則
原則として、契約の履行に関する費用は受託者負担となります。業務を遂行あるいは完了させるためにかかった費用は、原則として受託者の負担です。ただし、例外として『委任契約』と『準委任契約』の場合、業務の遂行に関する費用は委託者の負担となります。
委託者は受託者から請求があった場合、前払いで費用を負担しなければいけないことになっています。また、受託者が業務の遂行に必要な費用を立て替えて支払った場合も委託者は後払いで費用を負担しなければいけません。
とはいえ、費用の全てを委託者が負担するというわけではなく、あくまでも「客観的に業務をするために必要な費用」に限ると考えられています。実際のところ、この基準は曖昧(あいまい)で、民法で明確に定められているわけではないので、『業務委託契約』を締結する際に相談して『業務委託契約書』に明記することをおすすめします。
交通費は契約次第
続いて、『交通費』は誰が負担するのか、ということを考えてみましょう。『業務委託』をすると取材先やクライアント先へ赴く機会があり、電車代やガソリン代、駐車場代などがかかってきます。
『業務委託』においては、「別途交通費代を請求できるケース」と「報酬の中に交通費が含まれるケース」とがあり、委託者負担にも受託者負担にもなり得るようです。
ケースバイケースということですので、『業務委託契約』を締結するときに相談して明確にしておくことをおすすめします。とりわけ報酬が少額であれば、『交通費』をどちらが負担するかということは大きな影響を与えるので重要なポイントです。
契約書に明記することが大切
『交通費』のことを含め、契約内容に関しては細部まで書面に残しておきましょう。しかし、場合によっては電話で契約内容を相談してしまい、そのまま曖昧な状態で業務を開始してしまっているという人もいるでしょう。
たとえ信頼できる相手であったとしてもトラブルを未然に防ぐためには『業務委託契約書』で確認できるようにしておく必要があります。
特にフリーランスは、組織に所属する労働者とは区別され、悪質な場合は報酬未払いということも起こり得ます。自分の身は自分で守るという意識のもとで業務を遂行することが大切です。
榎本希
しかし、契約内容次第では委託者負担となるケースもあります。
契約を行う際には交通費の面も含めて話し合いを行い、その内容を契約書に盛り込むようにしましょう。
例えば取材など、契約書に交通費について盛り込んでいないような場合には報酬よりも交通費の方が高くなってしまうというケースも少なからずあります。
クライエントの会社までの交通費は報酬に含むが、遠方への出張費については別途交通費を請求するなど契約段階でお互いに合意し、契約書に記載するようにしましょう。
知っておきたいポイント
『業務委託』をするうえで知っておきたいポイントとして『消費税』と『源泉徴収』があります。どちらも、後でペナルティとして割増し徴収されないように、しっかり理解しましょう。
消費税について
消費税は、業務委託契約でも発生します。源泉徴収だけでなく、消費税についても計上した上で請求書を発行することになるので覚えておきましょう。
一般的には消費税は『外税』として、源泉徴収とは別途項目を設けて記載します。業務委託で仕事をする際には、消費税が含まれている金額なのかを発注先にしっかり伝えることが大切です。
源泉徴収について
『源泉徴収』とは給与や報酬を支払う者が予め一定の税率で所得税を算出し、その分を差し引いた形で給与や報酬を支払うシステムのことをいいます。
『源泉徴収』の対象は、「原稿料」や「講演料」「弁護士・税理士などに支払う報酬」などです。『源泉徴収額』の計算方法は以下の通りです。
- 報酬が100万円以下の場合:支払金額 × 10.21%
- 報酬が100万円超の場合:(支払金額 – 100万円)× 20.42% + 102,100円
正しく『源泉徴収』されているか自分でも計算して確認するとよいでしょう。
榎本希
業務委託であっても消費税については請求が可能です。課税売上という形になります。
請求書に記載する際には、小計とは別に消費税と合計金額を記載するようにします。
源泉徴収についてもその報酬が源泉徴収の対象となる報酬である場合には源泉徴収額を報酬から差し引いた金額を請求する形となります。
報酬については後々トラブルになりやすい部分でもあるため、契約前に必ず消費税の扱いや経費の扱いを含めて話し合いを行い合意した事項を契約書に記載し、契約内容に沿って請求を行うようにしましょう。
業務委託による報酬と確定申告
『業務委託』するうえで、少し悩むことになるかもしれない『交通費』の扱い方や『確定申告』のことを理解しておきましょう。
交通費の勘定科目や仕訳
かかった交通費を委託者が負担するときの扱い方を紹介します。受託者が立て替えて支払うケースが多いと思うのですが、その際は領収書をきちんと受け取り、保管するようにしましょう。委託者に請求するときに領収書が必要となるケースがほとんどだからです。
そして、負担した経費を『売上』に加算して委託者に請求します。『売上』と『経費』が同額計上されるので、利益は同じになるのですが、消費税の納税義務者を判定する際の『課税売上高』に影響を与えるので、売上高が1000万円前後の場合は注意が必要です。
確定申告の必要性
『確定申告』が必要がどうかも気になるところでしょう。下記のケースは『確定申告』が必要になります。
- 副業として業務委託で報酬を得た場合:所得が20万円超
- 業務委託のみで生計を立てている場合:所得が38万円超
『控除』や『経費対象』については細かな定めがあるので、自分が『確定申告』しなくてはいけないのかしっかりチェックするようにしましょう。
榎本希
この場合、仕訳を行う際に「立替金」を使う場合と使わない場合で売上の金額が異なります。
立替金を使って仕訳を行った場合には売上は実質の売上金額になりますが、立替金を使わずに旅費交通費として仕訳を行い後日精算を行った場合には入金された金額は売上計上することになるため売上が増えることになります。
立替金を使用した場合には依頼者側が領収書を保管することになります。
立替金で計上した場合には旅費交通費という勘定科目を使用しないため、経費にはならないので注意しましょう。なお、確定申告については、令和2年度分より基礎控除が48万円に引き上げられるため、業務委託のみで報酬を得ている場合には所得が48万円以上になった場合には確定申告が必要となります。
まとめ
『業務委託』をする際は、自己管理しなければいけないことが増えるので、事前の確認が必要だといえます。
とりわけ『業務委託契約書』の存在は大きく、「きちんと締結すること」や「詳細なことまで文面に残しておくこと」はとても重要なポイントです。
『交通費』の負担は委託者なのか受託者なのか、相談しておくべきことが多くて大変かもしれませんが、チェックリストやテンプレートを作っておくとよいでしょう。