業務委託契約書を確認しよう
2018年から政府が副業を推奨する動きを見せた影響もあってか、副業やフリーランスなど『業務委託』で仕事をする人が増加傾向にあります。
出典:副業・兼業
業務委託で仕事をするときはあらゆることが自己責任になります。第一歩として、まずは業務委託で仕事をする際に締結する『業務委託契約書』を確認してみましょう。
そもそも業務委託とは
業務委託とは、発注者から受けた業務を処理あるいは完了することで受注者が報酬を受ける契約を言います。業務委託は『請負』と『委任(準委任)』の二つを総称するものです。
- 請負…発注者から依頼のあった成果物を完成させることで報酬を受けること
- 委任(準委任)…発注者から依頼のあった業務を遂行することで報酬を受けること
委任(準委任)は、業務を遂行しますが、成果物を完成させる責任は負いません。
なお、委任と準委任の違いは「法律行為であるかどうか」です。弁護士や税理士などがする法律行為は委任で、法律に関係しないことは準委任と呼びます。
業務委託をするときは請負なのか委任(準委任)なのか、明確にしておきましょう。業務の完了基準が異なるためです。
例えば、システム開発の依頼があったとします。システムは出来上がったが、発注者の求めるものとは少し違ったとします。そのときの対応としては主に三つ考えられるでしょう。
- 業務完了とする
- 無償で修正対応する
- 有償で修正対応する
どのような契約を結んでいるかによってとるべき対応が変わってくるので事前に双方の確認を徹底する必要があります。
雇用契約との違い
『業務委託契約』と『雇用契約』の大きな違いは、労働法が適用されるかどうかです。業務委託契約の場合は、労働法による保護の対象にはなりません。
労働法が適用されていない業務委託契約では、以下のようなことが言えます。
- 法定労働時間という制約がないため残業という概念がない
- 最低賃金といった賃金に関する規制がない
- 突然解約されることもある
- 解約されても失業保険がない
- 仕事による怪我があっても労災保険の給付がない
業務委託契約は、労働者に該当せず、発注者との契約内容全てが自己責任になるというわけです。しかし、その分発注者・受注者双方にとって自由度が高いというメリットがあります。
発注者は、受注者を労働法による保護の対象としなくて済むため管理責任がない点を考慮すると、雇用契約ではなく業務委託契約を選択するメリットがあるといえるでしょう。
榎本希
業務委託契約は「委任契約」「準委任契約」「請負契約」の総称として使われたりします。
契約書には「業務委託契約」と記載されていても、仕事の内容により「準委任契約」か「請負契約」になる場合がほとんどです。
委任契約は法律事務の委任を受けて遂行する事を約す契約であり、準委任契約は法律事務以外の事務の依頼を受けて遂行する事を約す契約になります。
請負契約は仕事の完成や成果物の納品を約す契約になります。
雇用契約と大きく異なる点は労働法の適用の有無と指揮命令の有無が挙げられます。
業務委託で支払う税金
業務委託に関する税金は4種類です。業務委託になると雇用契約のときにはあまり意識しなかった税金もしっかり管理する必要が出てきます。国民には納税義務があるので、しっかり把握しましょう。
所得税
所得税とは、1年間の収入から経費や所得控除などを差し引いた所得(課税所得)に課せられる税金のことです。
会社員の場合は、所得税の計算は会社が行いますが、業務委託の受注者は自分で計算して税務署に申告する必要があります。
所得税には『基礎控除』や『社会保険料控除』『扶養控除』などがあり、所得金額から差し引くことができることを知っておくとよいでしょう。
住民税
『住民税』とは、『都道府県民税』と『市町村民税』の総称のことです。
住民税は、前年の課税所得に対して一律10%が課税される『所得割』と定額で課税される『均等割』の二つで構成されます。
給与所得がある人は原則として毎月の給与から天引きされます。一方、給与所得ではない人は、それぞれの地方行政機関から届く納付通知書に従って納付しましょう。
住民税は自分で計算する必要がないため、あまり意識しないかもしれませんが、しっかり納める必要があります。
個人事業税
『個人事業税』とは、個人事業主が都道府県に対して納める税金のことを言います。
『法定業種』と呼ばれる70の業種に従事していて、かつ、所得が290万円を超えている個人事業主が課税の対象です。
『住民税』と同様に、自分で税額計算する必要はありません。
消費税
『消費税』とは、商品やサービスの購入・販売に関する税金のことを言います。
全ての個人事業主に課せられる税金ではなく、2年前(基準期間)の年間課税売上高が1000万円を超える場合、もしくは前年の1月1日から6月30日までの期間(特定期間)における課税売上高が1000万円を超える場合には納税義務が発生します。
なお、特定期間における課税売上高に代えて特定期間中に支払った給与等の金額(給与、賞与、役員報酬)により判定することが可能であるため、特定期間中の課税売上高が1000万円を超えていても特定期間中の給与等の支給額が1000万円以下であれば免税事業者となります。
榎本希
業務委託で働く場合には会社員として雇用契約で働く場合と異なり税金は自分で納付する必要があります。
個人事業主として業務委託で働いている場合に支払う税金をまとめると以下のようなものがあります。
・所得税(1年間の収入に対してかかる税金)
・住民税(1月1日に居住していた住所地に払う都道府県税と市区町村税)
・個人事業税(1年間の事業所得が290万円を超える場合)
・消費税(免税期間または免税事業者以外の場合)
その他、国民健康保険や国民厚生年金なども自分で支払う必要があります。
業務委託の源泉徴収について
業務委託に関する事柄として『源泉徴収』があります。
会社員であれば会社が源泉徴収を行ってくれるため、そこまで深く意識しないかもしれませんが、業務委託をするのならばきちんと理解しておきたいところです。
源泉徴収とは
源泉徴収とは、会社や発注者など給与や報酬を支払う者があらかじめ一定の税率で所得税を計算して差し引いてから報酬を支払うことを言います。
会社や発注者が源泉徴収を行うことで、報酬を受け取る者は前もって所得税を納めることになります。国にとっては安定的な税収を確保しつつ確実に所得税を徴収するという意味でメリットがある方法です。
源泉徴収の対象
主な源泉徴収の対象業務としては以下があります。
- 原稿執筆
- デザイン
- 講演
記事を執筆代行してもらったり、デザインしてもらったりしたときに支払う報酬などが対象となります。業務委託の報酬全てが『源泉徴収』の対象になるわけではないところに留意してください。
計算方法
『源泉徴収』の計算方法は以下の通りです。
報酬が100万円以下の場合は「支払金額 × 10.21%」で、報酬が100万円超の場合は、「(支払金額 – 100万円)× 20.42% + 102,100円」となります。
『源泉徴収』の計算は、消費税を含んだ金額で行うのが基本です。しかし、消費税を別にする際には税抜きの金額で算出するようになっています。
また、『利子』の『源泉徴収税』は15.315%、『地方税』が5%とされていて、復興特別所得税は「差引所得税額(基準所得税額)×2.1%」で求められます。
榎本希
給与以外の源泉徴収に関しては100万円を境に計算が変わります。
ただし計算式で算出した金額に加え下記の支払については控除額が個別に設定されています。
・司法書士や土地家屋調査士、海事代理士への報酬
・プロボクサーへの報酬
・外交員への報酬
・ホステスへの報酬
・コンパニオンへの報酬
・広告宣伝のために支払う賞金
・馬主に支払う賞金
確定申告を行う
業務委託の場合は、所得から税金を算出して、自分で申告・納税する義務があります。毎年行われる『確定申告』です。
故意でなくても申告・納税が遅れたときはペナルティがあるのできちんと対応するように心がけましょう。
確定申告とは
『確定申告』とは、所得にかかる税金の額を計算して支払うための手続きのことを言います。
1月1日から12月31日までの間に得た所得に関して手続きを行い、2月から3月にかけて税務署に申請・納税します。場合によっては確定申告を行うことによって納めすぎた税金が返ってくるというケースもあります。
確定申告をする必要がある場合の具体例は以下の通りです。
- 副業の所得が20万円を超えたとき
- 個人事業主の所得が38万円を超えたとき
- 公的年金などの収入が400万円を超えたとき
- 不動産収入があるとき
- 災害減免法が適用されていて源泉徴収税の猶予を受けているとき
それぞれ細かい条件設定があるので、少しでも確定申告が必要なのではないか、と感じたら調べてみることをおすすめします。どうしても自己解決できない不明点があれば税務署に相談すると回答してくれるでしょう。
令和2年分より所得が48万円を超えたときとなります。
青色申告と白色申告の違い
確定申告の方法には『青色申告』と『白色申告』の二つがあります。
青色申告は、複式簿記で帳簿をつけることが義務付けられており、やや手続きが煩雑(はんざつ)になります。一方、白色申告は、簡易帳簿でよいとされ、帳簿づけが簡単になっています。
青色申告の特徴は以下の通りです。
- あらかじめ『青色申告承認申請書』を税務署に提出しなければいけない
- 65万円の特別控除が受けられる
- 赤字を3年間繰り越すことができる
白色申告の特徴は以下の通りです。
- 申告手続きが簡単になっている
- 特別控除を受けられない
- 赤字を3年間繰り越すことができない
今では、青色申告するための会計ソフトが普及しているため、作業がさほど複雑ではなくなってきました。業務委託をするのならば、メリットの多い青色申告を検討してみてはいかがでしょうか。
榎本希
確定申告には青色申告と白色申告があります。
青色申告特別控除を受ける場合には、青色申告をしようとする年の3月15日まで(年度途中で開業届を出した場合は開業日から2ヶ月以内)に青色申告承認申請書の提出が必要です。
青色申告は複式簿記で帳簿を作成する等の手間はありますが、e-Tax利用などの要件を満たした場合には最大65万円の控除が受けられ、白色申告よりも節税効果が高いです。
副業の場合副業所得が20万円以下の場合には確定申告の必要はありません。
個人事業主の場合は所得が48万円までは非課税ですが、赤字の場合には繰越ができるため確定申告を行っておいた方が良いでしょう。
その他にも医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合や、雑所得や不動産所得などがある場合にも確定申告が必要となります。
まとめ
業務委託に関連する『税金』や『源泉徴収』『確定申告』について紹介しましたが、どれも大切なことですので、しっかり理解しましょう。
業務委託は、会社員のような雇用契約とは異なる点が多々あります。自己管理しないといけないことが増えますが、それだけ自由度の高い働き方だと言えるでしょう。
副業やフリーランスとして活動するのであれば業務委託のポイントを押さえることも重要です。