年末調整の基本知識
企業勤めをしている人なら一度は聞いたことがある『年末調整』ですが、一体何を目的にして、どのようなシステムで行われているものなのでしょうか。
年末調整を理解するために『所得税』に関する基礎から見ていきましょう。
年末調整とは
日本では何かしらの収入がある人は『所得税』を納税することが義務付けられています。
企業勤めを行なっている人は、給与収入などから企業が所得税を計算して『源泉徴収』という形で給与から所得税額を天引きして納税しています。
源泉徴収は毎月行われますが、課税対象になる金額は年間で変動する可能性があります。しかし所得税額は本来は年間の『所得(収入から必要経費を差し引いた金額)』の総額を課税対象にするものです。
ここで、本来納税すべき所得税額と源泉徴収で納税してきた所得税額に食い違いが生じます。この金額の差を正して、過不足分の還付や徴収を行う制度が『年末調整』ということになります。
手続き方法
年末が近づくと、勤務先から年末調整を行うための2種類の書類が配布されます。
まず「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」は、社員に扶養家族や配偶者がいるかどうか、また個人の保険料額を記載して『控除』を受けられる額を計算するための書類です。
所得から控除額を差し引いた金額が課税対象になるため、所得税の払い過ぎがないように、控除できる保険料や「扶養控除」や「配偶者控除」を確かめる目的があります。
もう一つの書類は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。これには扶養関係の変更がある場合にその内容を記載します。扶養関係の変更がなくても提出する義務があります。
年末調整できる勤務先は1箇所
会社勤めを行なっている場合は企業と『雇用契約』を結んでいます。
2社以上の企業と雇用契約を結ぶ場合には、雇用主が複数であるため、2社以上の雇用主から年末書類の関係書類が配布されることになります。
しかし所得税は個人の所得を合算して、控除を重複させずに算出された金額に税率を掛けて計算されます。
ここでもし、2社以上のそれぞれの所得に対し控除額を申請すると、個人の所得税額は正しく計算されないため、年末調整関係書類の提出先になる企業は1社のみとされています。
基本的には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を最近提出した企業が本業という認識で、この1社と年末調整を行うのですが、本業扱いをする会社の決まりはありません。
榎本希
会社勤務の場合年末にかけて書類が2枚会社から受け取るかと思います。
この書類のうち1つが配偶者特別控除と保険料控除に関する物です。
医療保険などに加入していると保険会社から10月頃より医療保険の支払状況に関する書類が送付されてくるので、この書類とともに必要事項を記載して会社に提出します。
もう1つが扶養控除に関する書類です。
こちらも必要事項を記載して会社に提出をします。
この2通の書類を提出すると、会社で年末調整を行い確定申告を行ってもらうことができます。
なお、複数の勤務先がある場合に二は年末調整は1カ所のみとなります。
副業で確定申告を行うケース
年末調整と関連して、所得税に関わる『確定申告』を理解しておくことも重要です。
副業と確定申告の関わりを見ていきましょう。
経費精算する
副業を行う上でかかった費用は『必要経費』として計上できる場合があります。
何を経費に含められるか、また収入に応じて経費計上できる上限額は変わってきますが、課税される金額である所得金額は「収入−必要経費額」であるため、経費計上できるものは計上することで課税される金額を抑えることができます。
経費は申告制ですので、企業など他者は経費計上を行なってはくれません。経費がかかっていて所得税額を抑えられるなら自分で経費精算していくことになります。
20万円以上所得がある
年間の副業所得が20万円を超える場合には『確定申告』を行うことになります。
所得税の納税義務を果たすために企業は源泉徴収を行なってくれますが、年末調整を行う本業以外の経路からの収入が一定の基準を超える場合には、所得税額の確定は自分で行う必要があるのです。
副業所得が20万円以上ですので、副業収入に対して経費がかかりすぎて所得額が20万円未満、という場合には確定申告の必要はありません。
榎本希
会社員が副業を行っている場合に確定申告の必要があるのは副業所得が20万円以上の場合です。
ここでいう所得とは収入から経費を差し引いたものとなります。
また、副業所得が赤字の場合や副業所得で源泉徴収がされている場合などは確定申告を行う事で損益通算ができるので確定申告を行った方が良いでしょう。
副業と確定申告手順
確定申告についての理解をさらに進め、実際に確定申告を行うことをイメージしてみましょう。
確定申告とは
『確定申告』とは、事業を営む者がその年の所得税額を確定するために、所得に関わる情報を国税庁に申告する制度です。
1月1日から12月31日までの所得を計上して一括で申告することになりますので、1年分の収入の計算や経費計上、控除を受けられる項目の洗い出しなど全てを自分で行います。
収入源が複数ある場合は、それぞれの収入について所得区分が定められています。例えば給与収入なら『給与所得』、独立・継続・反復して行われる事業から得た収入として考えられるなら『事業所得』という具合です。
それら所得を合算して所得の総額を算出し、経費は国税庁の審査を通すために帳簿付けも行なっておきます。
確定申告の際に領収書などを持参する必要はありませんが、調査の過程で提出を求められる場合がありますので帳簿付けはきっちり行いましょう。
確定申告の方法
確定申告を行う際には『白色申告』と『青色申告』があります。年間の所得や控除を所定の書類に記載し、翌年2月16日から3月15日の間に国税庁に申告する形です。
ここでもし開業届を出して事業を行なっているなら、65万円か10万円の特別控除が受けられる『青色申告』を選択することもできます。
青色申告を行うには、3月15日までに、あるいは1月16日以降に事業を開始したなら2ヶ月以内に、国税庁へ届け出を行い認可を受ける必要があります。
また国税庁のWebサイトからオンライン申告することも可能です。
源泉徴収票を保管
本業で年末調整を行う場合は、副業での所得が年間20万円を超えるなら自分で確定申告を行うことになります。
確定申告の際には双方の源泉徴収票が必要です。副業でアルバイトなどをする場合に源泉徴収票が配布されるなら、本業の源泉徴収票と合わせて保管しておきましょう。
榎本希
副業がアルバイトの場合と事業の場合がありますが、アルバイトの場合には給与所得となり、額面が20万円以上であれば確定申告を行う事になります。
事業所得の場合、事業で得た収入から経費を引いた金額が20万円以上の場合、個人事業主として開業届を提出しており青色申告を行う場合、事業での所得が赤字で損益通算を行う場合には確定申告を行います。
確定申告の書類は税務署の窓口でもらうか会計ソフトなどで作成するかどちらでも問題ありません。
確定申告書を作成したならば必要な添付書類を添えて窓口で提出するか郵送するか選択します。
また、e-Taxを利用すれば添付書類の省略ができる物も多く、自宅にいながら確定申告を行う事ができるというメリットがあります。
複数社に勤務している場合の注意点
副業を行う際には、税制だけでなく企業との契約関係について考えておくことも重要です。
各社の就業規則
複数社に所属している場合は、各社の就業規則などの社内コンプライアンスに抵触しないように配慮することが重要です。
本業が副業を認めている場合でも条件付きであるケースも考えられ、これに違反すると解雇や罰則の理由になってしまう可能性があります。
副業を始める前には、本業である会社の就業規則などを確認するなど、副業をしても良いのかを事前に確認をする必要があります。また話しやすい上司にも相談するなどの対応をすると、さらに良いのではないでしょうか。
また、同業他社で働くなら企業は情報漏洩を恐れますので基本的に認可されない可能性もあります。副業を行う際には事前に双方に了解を取り、書面に残しておくことをおすすめします。
勤務時間の合計
従業員が複数の会社で労働者として勤務する場合には、勤務時間が通算されます。
これに関して俗に「36協定」と呼ばれますが、企業間で労働基準法第36条で定められた労働時間延長の限度に関する協定を定める場合があります。
例えば、本業で8時間労働し、その後副業で3時間労働した場合、副業での3時間の労働はすべて残業時間となります。このケースで、もし副業先の企業が36協定を締結していない場合、違法な残業をさせているという法的判断がなされることがあります。
榎本希
副業でアルバイトをしているなど、本業とは別の事業者に雇われて働いている場合には労働時間について注意が必要です。
本業の就業時間は多くの場合8時間、週5日ですので週の労働時間は40時間となります。
例えば本業での就業の後、週に3回3時間のアルバイトを行った場合には本業と合わせた労働時間は週に52時間となります。
労働基準法では週に40時間が法定労働時間とされています。
そのため、副業分の労働時間については法定労働時間外の労働となるため、副業先が36協定を締結していない場合には労働基準法違反となってしまう可能性があります。
また、36協定を締結しているからといって無制限に労働時間を増やせるわけではありません。36協定の時間外労働では1日おおよそ11~12時間の仕事が目安となるため、本業で8時間働いた場合には副業の労働時間は1日3~4時間が上限となります。
まとめ
副業を行う際には、年末調整や確定申告など税制に関わる事務や、各社の契約関係に関わる配慮などを踏まえて働くことが重要です。
副業が認められやすくなっているとは言え、容認していない企業は多いですので、副業を始める際は慎重に進める必要があります。
働き方が多様化している昨今、どのようにして収入を維持するか、あるいは増やしていくかという理解を深めていきましょう。