社会保険の基礎知識
『社会保険』とは、国民の生活を公的に保障するために設けられた保険制度の総称です。
会社員と業務委託では加入方法や加入出来る保険が異なるため、社会保険の基礎的な事柄については把握しておいた方がよいでしょう。
社会保険の基礎知識について紹介します。
健康保険と介護保険
病気や怪我、さらには老後の福祉サービスのための保険として、『健康保険』と『介護保険』があります。
まず、健康保険とは、病気や怪我で医療機関にかかった場合、治療費やその他の費用の一部を国や自治体が負担してくれる保険です。万が一治療費が一定額を超えた場合は、『高額医療費』として払い戻しも受けられます。
一方、介護保険とは、介護が必要となった際、自治体が介護や福祉サービス費用を給付してくれる保険です。40歳になると加入義務が生じ、保険料は40~64歳までの被保険者については健康保険と一緒に、65歳以上については年金から天引きで徴収されます。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、労働者が加入する公的年金です。厚生年金の加入者は、保険に加入することで『基礎年金』分に上乗せして、年金が給付されます。加えて、病気や怪我で障害が残った場合は『障害年金』、加入者が死亡した際はその遺族が『遺族年金』を受給することも可能です。
労災保険と雇用保険
労災保険と雇用保険は、労働者を保護するための保険です。
まず、『労災保険(労働者災害補償保険)』とは、業務中や通勤中の怪我や病気に対して保険給付を行う公的制度です。保険料は従業員数や業種ごとに算出され、毎年決められた時期に国に納付することが義務づけられています。ただし、基本的に全額雇用主負担のため、労働者が支払う必要はありません。
一方、雇用保険とは、労働者の安定した雇用や就業の促進を目的とする保険制度です。失業した際には『求職者給付』を受けられるほか、育児や介護で休職する際には『育児給付』『介護給付』も受けられます。
保険料については雇用主と労働者それぞれが負担し、労働者負担分は給与から天引きされるのが一般的です。ただし、負担割合については業種等によって異なります。
業務委託の場合の社会保険加入について
業務委託で働く場合、国の定める労働者には該当しません。そのため、社会保険については自身で手続きや納付を行わねばなりません。
業務委託の社会保険加入について見てみましょう。
業務委託と雇用契約の違い
業務委託契約で働く場合と雇用契約を結んで働く場合の最も大きな違いの一つが、クライアントや雇用主との関係性です。業務委託で働く場合はクライアントと対等の立場となりますが、雇用契約の場合は『使用する者』と『使用される者』という関係になってしまいます。
労働基準法第9条によると、労働者とは『事業又は事務所(以下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者』と定義されています。これに照らして見た場合、業務委託で働く人が労働者に該当しないのは明白です。そのため、業務委託契約で働く人は、労働者を対象とした労働保険や厚生年金への加入は認められません。
業務中や日常の怪我、病気、さらに働けなくなるリスクは、誰にでも常に存在します。業務委託契約で働く場合は、公的保障が無いことを承知し、自身で備えておく必要があるでしょう。
業務委託の場合は自身で加入
『皆保険制度』を取る日本では、国民は公的健康保険と公的年金には必ず加入しなければなりません。
労働者の場合は会社が手続きを行ってくれますが、業務委託で働く人は自身で『国民健康保険』『国民年金』にそれぞれ加入する必要があります。空白の時期を作らないよう、会社の保険から外れたら、速やかに市区町村窓口で手続きを行いましょう。
例外として、退職日までに2カ月以上継続して社会保険に加入していた人は、2年間退職した会社の健康保険に入れる『任意継続保険制度』を利用できます。ただし、保険料については会社の負担が無くなるため、全額自己負担です。
扶養について
所得税や社会保険の負担が大きいと感じる場合は、扶養の範囲内で働くと負担を軽減できます。
所得税と社会保険の扶養について、それぞれ確認してみましょう。
所得税の扶養
所得税の扶養では、自身の所得が一定額以内なら、『控除対象配偶者』として配偶者の扶養に入ることが可能です。
この場合、配偶者の所得税には『扶養控除』が適用され、配偶者の所得税も少なくなります。『配偶者控除』を適用するなら年間所得は38万円以下、『配偶者特別控除』を適用するなら123万円以下に抑える必要があります。
ただし、配偶者の所得によって控除額は変わってくるため、厳密な金額は自身で調べるのがベターです。
また、業務委託で働く場合、自身の所得税額についても注意する必要があります。というのも、白色申告者なら38万円、青色申告者なら103万円を超えると課税所得が発生するためです。詳しくは後述しますが、所得税の扶養を考える際は、配偶者の控除とともに自身の所得税についても正しく想定しておきましょう。
国税庁:No.1191 配偶者控除
社会保険の扶養
社会保険は、年収130万円以内なら扶養に入ることができます。
ただし、所得税の場合は年間のトータルが基準内に収まっていれば認められる一方、社会保険の扶養では『月々の収入ベース』で判断されることがあります。この場合、たとえ1年の総収入が130万円で収まっていたとしても、『130万÷12カ月=10万8333円』を超えた月があれば、扶養に入るのは『不可』となるのです。
細かい規定については会社の保険組合によっても異なるため、不安な場合は直接確認してみることをおすすめします。
個人事業主が扶養に入ることも可能
開業届を出して『個人事業主』となった場合でも、所得税や社会保険の条件を満たしていれば、扶養に入れます。
ただし、社会保険の扶養の場合、判断基準になるのは『総収入』です。
ここでの計算では青色申告特別控除や経費を差し引くことは出来ないため、扶養に入った状態を維持したい場合は130万円を超えないよう、計画的に収入を得ていく必要があります。
業務委託と確定申告について
業務委託として独立して働くなら、所得税の納付も大切な義務の一つです。
会社員の場合は会社が代わりに納付してくれますが、業務委託の場合は自身で所得税を計算して定められた期間内に納付する『確定申告』を行わねばなりません。
業務委託で働いた場合の確定申告について見てみましょう。
確定申告はいくらから必要か
業務委託で働く場合、確定申告が必要になるのは、白色申告なら年間所得38万円、青色申告なら年間所得103万円を超えた時です。
まず38万円というのは、すべての人に適用される『基礎控除』の金額です。白色申告の場合は、通常この控除しか適用されません。一方、103万円というのは、開業届とともに『青色申告承認申請』を出して、青色申告が認められている人に適用されます。このケースでは基礎控除の38万円に加え、青色申告特別控除の65万円が加算されるため、控除額が103万円となるのです。
白色と青色を比較すると、青色申告の方が節税効果が高いことが分かります。『業務委託でやっていく』と決めているなら、65万円の控除がある青色申告で申告できるよう、申請を出しておくのがベターでしょう。
税金の計算方法
所得税額の計算は、以下の手順で行います。
- 年間所得の算出
- 年間所得から控除額を引く
- 該当税率を掛ける
業務委託で働く人が所得税を計算するには、まず『年間総収入-経費』で年間所得を出します。その後先述のとおり、白色申告者なら38万円、青色申告者なら103万円を引きます。さらにこの時、生命保険料控除や医療保険控除など他にも該当する控除があるなら、それらも差し引いてください。
ここまで計算したら、次は算出した金額に該当する税率を掛ければ所得税が算出できます。
ただし年間所得が195万円を超えると、出した金額からさらに一定の控除額を差し引かねばなりません。税率と該当控除額については、国税庁のHPを確認しましょう。
国税庁:No.2260 所得税の税率
まとめ
業務委託で働く場合、社会保険の手続きや納税もすべて自身の仕事となります。加入できる保険の種類も異なるため、事前にきちんと確認しておくようにしましょう。
また、配偶者の扶養に入る場合は、収入や所得に制限があります。それぞれ加入条件は異なるため、個々の条件についてはきちんと把握しておくことが大切です。
個人事業主は自由度が高い働き方である分、通常の会社員が行わない手続きも多数ありますのでご注意ください。