個人事業主は原則厚生年金に加入できない
厚生年金の対象者の多くは、会社勤めをしているサラリーマンです。1人ですべて執り行っている個人事業主は加入対象になりません。
厚生年金は会社員のための年金
『被用者年金』ともいわれる『厚生年金』その名のとおり雇われている人を対象とした年金です。
国民年金の給付額に上乗せして給付される厚生年金の保険料は、4~6月に支給される給与によって計算された標準報酬月額とボーナスを合わせたものに保険料率を掛けて計算されます。
過去に1年以上加入していれば受給資格あり
厚生年金に加入できないとはいえ、受給資格がなくなるわけではありません。厚生年金は1年でも加入していた期間があれば受給されます。
受給額は厚生年金に加入していた期間と、その期間の収入によるため「何年ならいくらもらえます」とはっきりわかるものではありません。
また、少子高齢化により働き手の人口の割合は年金受給者に比べて減少していきます。この影響により、加入期間や収入が似通っていても、現在年金を受け取っている人の金額とは違いが出てくる可能性もあるでしょう。
従業員がいる場合は加入できる
個人事業主は絶対に厚生年金に加入できないわけではありません。加入するには一定の条件が必要となります。また、ある条件を満たすと加入が義務となります。では、その条件について確認しましょう。
5人以上いる場合加入義務が発生
従業員を雇うと労働保険に加入する必要があります。そして常勤の従業員が5人になった時点で、『社会保険』つまり厚生年金と健康保険への加入が義務付けられるのです。この5人とは家族従事者は含まないため注意しましょう。
ただし、従業員が5人以上であっても下記の業種の場合は厚生年金の加入は義務付けられていません。
- 農林水産業
- 飲食業
- 理美容業
- 税理士など士業
- 宗教業
自分の業種がこの5つのどれかに当てはまる場合は、厚生年金に加入するにはまた他の条件が必須となってきます。その条件については後述してあるので、必要に応じてチェックしておきましょう。
従業員の保険料は経費になる
社会保険に加入すると、厚生年金と健康保険を合わせた保険料を支払う必要があります。
個人事業主が支払う保険料は従業員の標準報酬月額の15%ほどと考えておきましょう。標準報酬月額とは、4~6月の給与と賞与から計算され、事業主と従業員が折半して支払います。
この従業員の社会保険料に関しては経費として計上できるため、帳簿に『法定福利費』として記録しておきましょう。
5人未満の場合は任意加入が可能
従業員が5人未満であっても厚生年金へ加入するのであれば、『任意適用事業所』の制度を利用する方法があります。いったん適用事業所になっても条件を整えれば取り消しも可能です。
事業主とその家族は加入できない
任意適用事業所の手続きを経て厚生年金に加入できるのは、従業員のみと定められています。個人事業主は入れません。また、個人事業主と同居している家族も加入できないことになっています。
個人事業主とその同居家族が加入できるのは『国民年金』です。さらにほかの年金を組み合わせることで受け取れる年金額を増やせます。『付加年金』『国民年金基金』『確定拠出年金』などを利用して老後に備えましょう。
従業員の2分の1以上の賛成が必要
任意の場合、従業員の半数が加入を希望していることが条件になります。もし少数経営の個人事業主が社会保険への加入を希望する場合は、¥従業員の意志を確認するといいでしょう。
逆に任意加入適用事業所から外れる場合には、従業員の3/4の賛成が必要です。この場合の従業員とは、総従業員ではなく、加入対象となっている従業員数のことなので注意してください。
厚生年金に加入するメリット
厚生年金の保険料は個人事業主が半額負担することになります。従業員数が少なく、まだそれほど収入を得ていない状態では保険料が負担になります。
加入する際には現状をよく確認することが必要ですが、その際には厚生年金に加入していることで得られるメリットについても加味しておくといいでしょう。
採用に有利
就職希望者の立場に立って企業を探していると想像してみましょう。社保完備の会社と、未加入の会社とでは、どちらに軍配が上がるかは明らかです。
入る会社を選べる優秀な人材であるほど、福利厚生の充実した会社を選ぶでしょう。社会保険に加入していることで、欲しい人材を確保しやすくなるといえます。
年金受給額が増える
厚生年金に加入していれば、保険料の半額は個人事業主が負担してくれるうえ、被扶養者の年金を追加で負担する必要もありません。保険料の負担は国民年金に比べてはるかに軽いといえるでしょう。
また、老後には国民年金に上乗せして厚生年金が給付されるため、老後の年金受給額が国民年金のみよりも増やせるのも、従業員にとって大きな魅力です。こうした制度が充実していると従業員が定着しやすくなります。
まとめ
原則として、個人事業主は厚生年金に加入できません。従業員を1人でも雇えば任意で加入することが可能です。また、5人以上の従業員を雇った場合、厚生年金への加入が義務となります。
社会保険に入っていることで、従業員側からは『安心できる会社』として見えるため、経営が安定してきたら社会保険への加入を考えてみるといいです。