個人事業主の売上=手取りではない
個人事業主になって受け取る金額が増えた、という人もいるでしょう。しかし、その金額は手取り収入ではないことに注意してください。aaa
税金や保険料の支払いが必要
会社員の給料からは、税金や保険料があらかじめ引かれています。企業が給料から天引きし、社員の代わりに支払っているのです。
個人事業主の売上からは、税金や保険料の天引きがされていません。そのため、売上から自分で支払わなければいけないのです。
会社員時代よりたくさんの金額を受け取れたとしても、その分支払わなければいけない金額が増えるものもあります。何にいくらくらい払わなければいけないか事前に把握して、お金の計画を立てましょう。
使える金額は売上より少ない
では、個人事業主の手取り金額は、いくらくらいになるのでしょうか?
例えば、売上650万の場合、まず必要なのが経費です。経費は業種によって違いますが、ここでは200万円必要だったとします。残った450万円が利益です。
しかし利益の450万円も手取り収入ではありません。さらにここから、税金や保険料を支払います。
国民健康保険と国民年金は、1年間でおよそ45万円です。また、所得税や住民税といった税金の納付には、約40万円かかります。これらを利益から引くと365万円です。
おおよその計算ですが、売上が650万円あったとしても、実際に使える金額は365万円ほど、と言えるのです。
榎本希
会社員の場合には給与として振り込まれた金額は社会保険料や住民税などを天引きした後の金額になるので、その金額が手取りとして使える金額となりますが、個人事業主の場合は異なります。
「売上-経費」まずはここで純利益がわかります。
いくら売り上げがあってもその分経費がかかっていたら純利益は低くなります。
個人事業主の場合はそこからさらに住民税や国民健康保険料や国民年金保険料を支払うことになります。
前年度の所得が290万円以上であれば個人事業税も支払うことになります。
個人事業主が支払う税金は4種類
先の例では税金は約40万円支払うことになっています。個人事業主が払うべき税金には、どのような種類があるのでしょうか?税金の概要と納付について解説します。
所得税と住民税
個人事業主になると確定申告を行います。ここで計算して支払うのが『所得税』です。所得税は、年間売上から経費や保険料・所得控除を引いて求める『所得』にかかる税金のことをいいます。
所得が増えるほど税率があがる税金なので、事業規模が大きくなるほど納税金額も増加するでしょう。
『住民税』は、都道府県民税と市町村民税を合わせた呼び名です。所得に関わらず同じ金額が課される『均等割』と、所得金額をもとに計算される『所得割』で構成されます。
納付は、自治体から届く納税通知書で行ってください。毎年6月上旬から中旬に届きます。
個人事業税
『個人事業税』は法律で定められている70の業種のみに課される税金です。所得290万円までは課税されません。
70の業種は3種類に分かれており、下記の通りそれぞれ税率が違います。
- 第1種事業(飲食店業・物品運搬業・保険業など37業種):税率5%
- 第2種事業(薪炭製造業・水産業・畜産業):税率4%
- 第3種事業(医業・弁護士業など30業種):税率3%
納付は8月頃に届く納税通知書で行ってください。納付先は都道府県です。
消費税
『消費税』を支払うのは買い物をした人ですが、納税義務があるのは個人事業主や企業です。ただし、全ての個人事業主が納税しなければいけないわけではありません。
2年前の年間売上が1000万円を超えていた場合に『課税事業者』となり、納税します。所得税と同じように、自分で計算して税務署に納付するのです。
消費税は、預かった所得税と支払った所得税の差額を計算して求めます。例えば、1500万円の売上があり、400万円仕入れていた場合で計算します。
すると、預かった消費税は120万円で、支払った消費税は32万円です。納税するのは差額なので、「120万円-32万円=88万円」と計算できます。
榎本希
まずは所得税です。
1年間の所得に応じて所得税を支払うことになります。
課税所得金額として算出された金額に税率をかけた金額が所得税となります。
次に住民税です。
住民税は所得割と均等割りから構成されます。そのため、所得が多ければ住民税もまた金額が大きくなります。
次に個人事業税です。
こちらは年間の事業所得が290万円を超えた場合には職種に応じた税率で計算された金額を支払うことになります。
最後に消費税です。
こちらは2年前の年間売り上げが1000万円以上の場合には課税事業者となり支払う必要があります。
逆をいえば開業から2年は消費税はかかりませんし、売上金額が1000万円を超えていなければ消費税は支払わないということになります。
所得税と住民税の計算方法
紹介した税金のうち、全ての個人事業主が納付しなければいけないのが、所得税と住民税です。2つの税金の計算方法を知り、事前にどのくらいの納税額になるか計算しましょう。
所得額により金額が変動
所得税は、所得が増えるほど納税額も増えます。単に支払う金額が増えるというだけでなく、税率も高くなっていくのです。これを『累進課税』といいます。
ただし、所得にかかる税金なので、黒字のときにしか納税義務は生じません。
住民税のうち、所得に応じて納税額が変わるのは、所得割部分です。一方、均等割部分は、一定以上の所得があると定額で課されます。
所得額は確定申告で決定
税金を計算するときに必要な所得は、自分で計算し、確定申告して決定します。個人事業主の場合、1月1日から12月31日の1年間に発生した、全ての取引を対象に計算するのです。
所得額は『総収入金額(売上)-必要経費-控除額』で計算しましょう。
『総収入金額』は、1年間の売上です。実際に売りあげとして入金された金額はもちろん、まだ入金されていなくても売上が確定しているものも含めます。
『必要経費』は、事業を行うのにかかった費用の合計です。総収入金額と同じで、支払い自体はまだでも、支払い義務があるものも含めてください。
『控除』は、個々の状況を考慮して税金の計算に反映するためのものです。基礎控除・青色申告特別控除・配偶者控除などがあります。
所得税と住民税の計算式
所得税の計算式は『所得金額×税率-控除額=所得税額』です。先ほど計算した所得額を使って求めましょう。税率と控除額は、下記の表の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195~330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330~695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695~900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900~1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800~4000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円~ | 45% | 479万6000円 |
住民税で計算が必要なのは所得割です。所得税と違い税率は一律で、市区町村民税が6%・都道府県民税が4%の合計10%が原則です。
計算式は『(所得金額-所得控除額)×税率-税額控除額』です。住民税と所得税では、所得控除のルールの違いに注意しましょう。
榎本希
個人事業主として事業を行っている人が「今年は経費が少ない」「経費を何とか作れないか」などと経費を気にするのを耳にしたことがある人もいるかと思います。
その理由は個人事業主の所得と経費は大きく関係するからです。
個人事業主の所得は「売上-経費」が基本です。
つまり経費が少なく売り上げが大きければそのまま所得が増えますし、逆に売り上げが大きくても経費が多ければ所得は少なくなります。
売上から経費を引いた金額からさらに各種控除を引いた金額に応じた税率がかけられますので、少しでも税率を下げるために経費の有無は個人事業主にとっては大切なのです。
所得が少なくなればその分住民税や国民健康保険料も少なくなります。逆に所得が多ければその分多くなります。
住民税は前年度の所得を基に計算された金額になるため、前年度の売り上げに比べて今年度の売り上げが減っている場合などは住民税の負担や国民健康保険料の負担が大きくなってしまうのです。
まとめ
個人事業主になると、収入が大幅アップしたように見えます。しかし、実際は、税金や保険料の支払いがあるため、手取り収入としては会社員とそう変わらないことも多いのです。
売上が手取り収入になるわけではないということを知った上で、税金や保険料の支払い分を確保する習慣を身につけましょう。