勘定科目の基礎知識
勘定科目は、経理業務を行う担当者にとって知っておかなければならないものです。会社を永続的に運営するためには、お金の収支を記録する勘定科目が必要になります。
仕訳に用いる分類項目の名称
勘定科目とは、会社の経理上の仕訳に使う分類項目の名称のことです。確定申告にも必要になる貸借対照表や損益計算書など、会社のお金の状態を示す書類の基本になります。
しかしながら、勘定科目の項目は法律で決められているわけではなく、会社ごとの規定や、会計ソフトで使われている勘定科目によって異なる点には注意しなければなりません。
なぜ勘定科目が必要か
ではなぜ勘定科目が重要なのでしょうか。会社の経営陣は、自分たちの会社のお金の動きをチェックして、今後の経営方針の決定に役立てます。
また、金融機関や株主など自分たち以外の利害関係者に会社のお金の動きを明確にすることで出資の材料にしてもらうという意味合いもあるでしょう。そして、税金の計算にも必要なものです。
どのようなものにどれだけのお金を使っているのか、逆にどのようなものでどれだけの儲けが出ているのか。これらを読み取るためには、勘定科目による仕訳が必要になります。
そしてこれらの数字を、金融機関はお金を貸し出すかどうかの判断材料とし、株主は出資するかどうかの判断材料としているのです。
勘定科目における注意点
勘定科目で注意すべき点は、会社ごとに異なることが多いという点です。つまり、Aという会社で経理を担当していた人が、Bという会社に転職して同じく経理を担当することになったとしても、使ったこともない勘定科目を目にすることはよくあることです。
そのため、勘定科目を把握するためには会社ごとの規定も一緒に把握する必要があります。例えば、文房具を購入するときに『消耗品費』で処理する会社もあれば、『備品』で処理する会社もあるでしょう。
とはいえ、できる限り一般的といわれている勘定科目を採用するのが推奨されていますので、新しいルールを決めるとき青色申告決算書で設定されている勘定科目を目安にすることをおすすめします。
勘定科目の種類について知ろう
勘定科目の付け方は法律で定められているわけではありませんが、大きく分けて五つに分類されています。
それが『収益』『費用』『資産』『負債』『純資産』です。この中の収益と経費は一定期間に発生するものなので損益計算書にまとめられます。残りの資産・負債・自己資本は、ある時点での会社の状況を示すために使われるので貸借対照表にまとめられるのが一般的です。
収益
収益とは、会社が事業を運営して得たお金のことを指します。収益の分け方は『売上高』『営業外収益』『特別収益』の3種類です。
売上高は、企業が商品やサービスを提供することで得られた本業による収益です。
営業外収益は、本業以外の収益を示します。例えば、製造業を本業としている会社が不動産を所有していて、その賃貸料が恒常的な収益となっている場合や、受取利息のような収益の総額ことです。
そして、特別収益は営業外収益の中でも臨時的に発生したものとなっています。所有していた不動産を売却した際の収益などが、特別収益として計上されるものです。
経費
経費とは、会社が事業を運営するうえで発生した費用の総額です。費用は『売上原価』『販売費及び一般管理費』『営業外費用』『特別損失』の4つに大別されます。
売上原価は、商品の仕入れや製造の際に発生する費用で、単に『原価』と呼ばれることもあります。
販売費及び一般管理費は、売上原価に会社の業務を管理する費用を加えたものです。商品やサービスを世間にしってもらうための費用の広告宣伝費はこの科目に含まれます。
そして、会社の営業活動以外で恒常的に発生する支払利息などの費用を営業外費用と呼んでいます。一方、不動産を購入したときのように、営業活動に直接的に関係なく臨時的に発生した費用を特別損失と呼びます。
資産
資産とは、会社が所有している財産のことで、現金や預金はもちろん、売掛金や不動産・自動車などが含まれます。
資産の種類は、変動が大きい現金や預金などの『流動資産』、不動産など土地や建物のように安定感のある資産である『固定資産』、会社の創立費や開業費などの『繰延資産』の3種類です。
会社の経営状態を判断する際には、安定した資産が多いほど経営が安定していると考えられます。
負債
負債とは、資産の逆で会社が抱えている債務のことです。負債には、金融機関からの借入金のほか、買掛金や未払いの法人税や消費税などの税金も含まれます。
支払手形や買掛金のほか借入金や未払金など、ほかの会社に対して借りがある状態のものは負債に含まれるのです。
負債は、製品の購入やサービスを提供してもらうことで発生しますが、貸借対照表においては、金額の動きが多い『流動負債』と金額の動きがほとんどない『固定負債』に分けられます。
自己資本
自己資本とは『純資産』とも呼ばれているもので、資産から負債を引いて算出されます。会社が所有している純粋な資産を数値化したもので、自己資本を自己資本と負債を足したもので除した『自己資本比率』の算出根拠になるものです。
自己資本比率が高い会社は、安定した企業運営を行っていると考えられるので、会社の経営の健全性を示す指標の一つとして活用されています。自己資本比率が40%以上の会社は倒産のリスクが低いと言われているのが一般的です。
しかしながら、自己資本比率が高過ぎる場合には、資本が豊富にあるのに適切な投資を行っていないという判断をされてしまうこともあるので注意しなければなりません。
また、日本以外にも拠点がある国際的な金融機関については、銀行の財務上の健全性を確保することが目的の『BIS規制』の中によって8%以上の自己資本比率を保つことになっています。
財務諸表について知ろう
勘定科目を活用して作成するのが、貸借対照表と損益計算書です。これらは財務諸表の中でも重要な書類で、会社の業績や財政状態を示す資料ですので、金融機関や投資家が出資する際にも活用されています。
貸借対照表とは
まず、貸借対照表について説明しましょう。この書類は、ある時点で会社がどれくらいの資産を保有しているかを示しています。つまり、現在の会社の財政状態がわかる表です。
貸借対照表は資産・負債・自己資本の3つから成り、左側(借方)に資産を、右側(貸方)に負債と自己資本が記録されています。このとき、借方の総計と貸方の総計は同じ金額になるのです。
損益計算書とは
一方、損益計算書は会社が活動しているある期間を切り取って、その間にどれくらいの収益と費用が発生したかを示している書類です。損益計算書からわかることは、会社がどれだけの収益力を持っているか分かります。
損益計算書には収益と経費が記載され、最終的には純利益が計算されるようになるのです。
勘定科目の決め方とは
勘定科目については、法律でその項目の付け方が定められているわけではありません。そのため、上場企業のように多くの投資家・株主に経営状況の説明を必要とする会社以外では、それほど慎重にならなくても良いでしょう。
実際のところ、会社によって勘定科目の名称は異なっているのが現状です。経理担当者が転職をした際に、A社とB社で同じ内容の項目だとしても、その名称が全然違うということは少なくありません。
厳密な法規定はない
法律により厳密に定められていない勘定科目は、それぞれの会社のルールが適用されています。しかし、税務上注意が必要な勘定科目もあります。
それは、税金の計算に直結している項目です。自宅兼事業所の会社では、地代や光熱費などについて、どれくらいの割合が事業で使用されているのかを計算しなければなりません。
この割合を明確にして費用を計上しなければ、税務署からチェックが入ることがあります。
また、福利厚生費や交際接待費などが大きく膨らんでいる場合は、個人の支出を会社で賄っていると疑われるので注意が必要です。
そして、勘定科目を頻繁に変えるのは避けましょう。勘定科目が変わるということは、会計年度ごとの比較が難しくなることから、会社の正しい財務状況を把握しづらくなってしまうからです。
会計ソフトを使用している場合は、ずっと同じ勘定科目を使っていると会計年度ごとの比較がしやすくなります。
勘定科目選択の例
それでは、勘定科目に迷ったときはどのようにすればよいのでしょうか。基本的には、以前に使った勘定科目を使用するのがベースになります。
商品やその材料の購入
商品や原材料を購入した場合はどうでしょうか。販売するために購入したものは『仕入高』を使用することが多いですが、直接的な利益を生み出さない展示のために購入したものには『広告宣伝費』を使っても良いでしょう。
この広告宣伝費には、有形・無形の商品が含まれています。例えば、宣伝のためにテレビやラジオ、インターネットでCMを打つ場合や、雑誌広告を掲載する際にもこの項目を使います。
物品の購入
物品を購入するにあたり、基準となるのが10万円という金額です。10万円以上の場合は『工具器具備品』や『事務用品費』『ソフトウェア』など具体的な科目を使いますが、10万円以下の物品については『消耗品費』を使うことも多いです。
またパソコンのように資産として考えられる商品を購入した場合は、減価償却によって会計処理を行います。ただし、10万円未満のパソコンや備品については、そのほかの物品と同じく『消耗品費』を使って処理することが一般的です。
サービスの購入
他社のサービスを購入した場合はどうでしょうか。それが広告につながるものであれば『広告宣伝費』を使います。社員の教育のためのセミナー受講料などは『採用教育費』や『福利厚生費』『研修費』を使用すると良いでしょう。
そのほかよく使用されるのが『支払手数料』です。この項目名は多様性がありますが、対象が複数ある場合はどのような支出をしたかが分かりづらくなることがあるので注意が必要です。
ちなみにオフィス備品をレンタルする場合は『リース費』『賃貸費』を使用すると良いでしょう。
公的費用の支払い
源泉徴収税を支払う場合は『預り金』という項目を使用します。社員の源泉税の徴収・納付だけでなく、士業分の徴収・納付にも活用できるでしょう。社員や士業に支払うお金の一部を預かり、社員や士業の代わりに国に納付するためのお金です。
また法人税・地方税の中間納税には『仮払法人税』『仮払地方税』を、消費税の仮払いには『仮払消費税』を使用します。
そして、固定資産税を支払うときや収入印紙の購入時には『租税公課』を使用します。収入印紙以外にも、登記簿や履歴事項全部証明書などの公的書類の取得にかかった費用は『租税公課』を使用します。
その他
そのほかにもさまざまな項目がありますが、代表的なものを以下に挙げておきます。
社員の結婚や社員の家族の香典などの慶弔費は『福利厚生費』を使います。カードの年会費や各種会合の参加費用は『諸会費』を使用すると良いでしょう。
また事業主や会社が貸し付けを行う場合は『事業主貸』や『短期貸付金』などの項目を使い、誰に貸し付けを行ったかを記入しておきましょう。
具体的な分類の例
このようにさまざまな分類ができる勘定科目ですが、特に仕訳に迷うであろう科目をピックアップしてみましょう。
ガソリン代
ガソリン代については、必ずこの勘定科目を使わなければいけないというものはありません。『車両費』という項目がある会社もあれば、『旅費交通費』で処理している会社もあります。
いずれにしても課税対象となる項目ですので、会社のルールに則って使用しましょう。
駐車場代
使用用途によって勘定科目が違うのが、駐車場代です。駐車場を恒常的に借りている場合は、『地代家賃』といった項目で仕訳します。また、臨時的に使うタイムパーキング代などは『旅費交通費』で処理することが多いでしょう。
コピー代
コピー代は意外に仕訳に迷うところですが、『消耗品費』で処理することもできます。この『消耗品費』というのは便利な項目で、購入費用が10万円以下のオフィス備品のほとんどで使用できるでしょう。
このように、勘定科目にはあいまいな部分がないわけではありません。会社ごとで長年培ってきたルールがありますので、そのルールを把握することが大切です。
勘定科目内訳明細書について知ろう
最後に『勘定科目内訳明細書』について説明しておきましょう。
勘定科目内訳明細書とは
勘定科目内訳明細書とは、その名の通り勘定科目の内訳を明細として記録しているものです。貸借対照表と損益計算書のもとになる書類として、法令で提出が義務付けられています。
決算日の翌日から2か月以内(3月決算であれば5月中)に、確定申告書・決算報告書など法令で決められている書類とともに、所轄税務署に提出しなければなりません。
税務署では、貸借対照表と損益計算書だけでなく勘定科目内訳明細書の内容もチェックします。そして、提出された書類が正しく申告されていることを確認してから、正式な書類として認定することになります。
この時点で不明点や不明瞭な取引が見受けられる場合は、税務署から経理担当者に連絡が入りますので、指摘された部分を修正して再提出しましょう。
主な内訳書の種類と注意点
ここでは主な内訳書について説明していきます。
まずは、預貯金等の内訳書です。会社のキャッシュフローを示す大切な数字となりますが、取引金融機関別に記入しなければいけません。続いて、実際にお金のやり取りをする前の売掛金・買掛金の内訳書です。
在庫を抱える商売で多く使われるのが、棚卸資産です。この棚卸資産には、商品や製品はもちろん、原材料なども含まれます。また、土地や建物を所有している会社は、固定資産の内訳書も必要になります。
会社にとって最も重要ともいえる売上高も記入します。この時注意しなければならないのが、事業所別の内訳書が必要になることです。
そして、支出の部分では役員報酬手当と人件費の内訳書も重要事項です。役職名や氏名・住所・代表者との関係のほか、常勤か非常勤の区別を記入します。退職者がいる場合は、退職手当も記入します。
まとめ
このように、勘定科目は会社の経理業務には必須のものですので、経理に関する部署にいなくとも最低限の知識は押さえておきましょう。また、最近は会計ソフトも充実しているので、基本的な事項を理解しておけばそれほど難しくなく仕訳はできます。
とはいえ、知識を持っているのと持っていないのとでは雲泥の差です。勘定科目を理解しておくと、もし独立して自分で事業を行うとなった場合でも、すぐに会社のお金の状態がわかるでしょう。