業務委託は有給休暇を取得できるのか
業務委託契約を結んで働く場合、有給休暇や残業手当、休日出勤手当などはありません。業務委託契約で仕事を請ける場合、企業と雇用関係にないからです。
業務委託契約で働くとはどういうことなのか、整理してみましょう。
有給休暇とは
『有給休暇』(年次有給休暇)は、労働者の権利の一つです。この権利を行使することで、労働者は定められた範囲で、休暇日でも賃金の支払を受けられます。
有給休暇は労働基準法第39条に明示された労働者の権利ですが、その目的は労働者の福祉向上です。雇入れの日から6カ月の時点で有給休暇が付与され、その後は1年ごとに増えていきます。
雇用者は、雇入れの日から起算して6カ月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員に対しては、10日分の有給休暇を与えなくてはなりません。これに反した雇用者に対しては、『従業員一人当たり最大で30万円の罰金』などのペナルティが科せられます。
労働者に該当しない
業務委託の場合に有給休暇がないのは、業務委託契約を結んで働く人が、厚生労働省の定める『労働者』に該当しないためです。
労働基準法では、労働者を『職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者』と定義しています。これは、業務委託契約の形態とは一致しません。つまり、業務委託契約で働く場合は、通常の労働者と同様の保障や権利を訴えることはできないということです。
有給休暇が労働者の権利の一つであることを考えれば、業務委託契約で働く人が有給休暇を取得できないのは、当然と言えるでしょう。
残業や休日出勤も関係ない
業務委託契約で働く場合、残業や休日出勤といった概念はありません。
基本的に、業務委託は『成果物』によって報酬を得るため、時間をどう配分するかは受託者の自由です。契約内容に労働時間等の取り決めがある場合は別ですが、基本的に委託者から労働時間や休日について指図されることはありません。
そのため、どんなに遅くまで働こうが休み返上で働こうが、それはすべて受託者の責任とみなされるのです。
出典:雇用契約と業務委託契約(労働者性)|労働相談に強い弁護士|ベリーベスト法律事務所
榎本希
雇用契約で働く場合には労働法の適用があるため、条件を満たした場合には有給休暇の取得ができますが、業務委託契約の場合はそもそも労働者という立場で業務を行うわけではなく、事業主と事業主という対等な関係での契約に基づいて業務を行うことになりますので労働法の適用はありません。
そのため、業務委託契約で働く場合には有給休暇はありません。
業務時間や休みの自己管理が重要
業務委託契約で働く場合、業務時間や休みについての決定権は自身にあります。この場合、自己管理はどのように行うべきなのでしょうか。
労働基準法などで保護されない
労働者の場合は、労働基準法で法定労働時間や休日取得の義務などが定められています。ところが、労働者に該当しない業務委託契約の受託者には、前述のとおり労働基準法が適用されません。そのため、超過労働で体調を崩したと訴えても、受託者の言い分は通らないでしょう。
業務委託契約で働く場合、すべての根拠となるのは、事前に結んだ契約です。契約を結ぶ際は、労働基準法によって守られることは無いと承知して、自身で不利な契約を結ばないように注意する必要があります。困難な業務に関しては納期に余裕を持たせるなど、自身でクライアントと交渉すべきでしょう。
労働時間や出勤日は自分で決められる
業務委託契約を結んで働く場合、求められるのは『成果物』です。そのため、労働時間や出勤日については自身の裁量で自由に決められます。
ただし、労働時間や休日を自由に決められるということは、長時間労働や無休労働にもなりやすいということです。労働時間の管理についてはすべて自己責任となるため、いかに無理のないスケジュールを組むかが、業務委託契約では重要でしょう。
常駐案件は稼働時間の規定があることが多い
フリーランスのエンジニアなどは、委託者側のオフィスで働く『常駐案件』も珍しくはありません。この場合は業務委託契約で働いているとはいえ、基本的には常駐先の勤務時間や休日に準じて働くケースが多いでしょう。
ただし常駐案件は、通常の業務委託契約よりも休日や早退を言い出しにくいのが現実です。
常駐案件では、契約条件にシフトや休日規定が定められている場合があります。この場合、いくら希望しても休日選択の余地は少なくなるでしょう。
また、責任が大きい仕事を任されていたり、社員の穴埋め的に働いたりしている場合も、自身の都合を優先して休むのは困難かもしれません。
常駐案件で休みが欲しい場合は、前もって周囲やクライアントに相談し、根回ししておくことが大切です。
榎本希
個人事業主やフリーランで働く場合には自身の時間管理や仕事量の管理、健康管理についても仕事のうちです。
自分がどの作業にどれくらいの時間がかかるかを自分で把握した上で労力に見合った報酬の交渉を行うことも大切です。
単価が低い案件割に報酬が少ない案件を受ければその分まとまった収入を得るためには多くの時間を仕事に充てなければなりません。
オーバーワークになり、体調を崩し、仕事を休まざるを得なくなったとしても労働法の適用はないため収入面の保障はありません。
ライフワークバランスを考慮した上で自分のキャパシティーを超えないようなスケジュールを組むことが大切です。
派遣やアルバイトでも有給はある?
派遣やアルバイトとして働く場合、有給休暇は取得できるのでしょうか。派遣やアルバイトの有休について紹介します。
条件を満たせば付与される
派遣やアルバイトは、労働基準法の定める労働者に該当します。そのため、条件さえ満たせば有給休暇は付与されるのです。条件については先述しましたが、もう一度ここで確認してください。
- 雇い入れの日から6カ月が経過している
- 算定期間の8割以上を出勤している
上記の条件を満たしていれば、採用日から6カ月後に10日の有給休暇が付与されます。ただし、下記のいずれかの条件を満たしていなければなりません。
- 週所定労働時間が30時間以上
- 週所定労働日数が5日以上
- 年間の所定労働日数が217日以上
上記を満たしていない時短パートやアルバイトの場合は、労働日数に応じた有給休暇が付与されます。
派遣元に申請する
派遣で働く場合は、派遣元である派遣会社に有給休暇を申請します。実際に勤務しているのは異なる企業でも、雇用されているのは派遣会社だからです。
有給休暇申請できる条件は前述のとおりですが、派遣の場合は派遣会社と働いている企業双方に有給休暇を申請する必要があります。一般的な申請の流れは、次のとおりです。
- 有休の取得希望を派遣会社に伝える
- 派遣会社が派遣先に、有休の取得希望を伝える
- 派遣先と休暇日の調整を行う
- 有休の取得
ただし、派遣会社によっては有休取得について細かいルールを設けている会社もあります。有給休暇を申請する前に、まず会社の規定を確認するのがベターでしょう。
榎本希
派遣社員やアルバイトの場合は雇用契約として働くことになるため、労働法の適用があります。
そのため、条件を満たしていさえすれば有給休暇の取得は可能です。
派遣社員の場合には派遣元と派遣先に有給休暇取得の申請を行う必要があります。
アルバイトの場合には雇用先に有給休暇取得の申請を行うことになります。
なお、2019年4月から年5日の有給休暇の取得が義務付けられました。
すべての企業の、年10日以上の有給休暇が付与される労働者が対象になります。5日の有給休暇については企業側が時季を指定して取得させることが必要なため、派遣社員の場合には指定日がいつになるのかを派遣会社に確認するようにしましょう。
まとめ
業務委託契約で働く場合、作業時間や休日を自由に設定できるというメリットがあります。ただしこの働き方は『労働者』に該当しないため、有給をはじめとする労働者の権利は享受できません。『業務委託契約では雇用関係が発生しない』という事実は、仕事を始める前に理解しておくべき事項です。
業務委託契約では、休日や労働時間の管理はすべて自身の責任になります。超過労働で体調を崩さないようにするには、自身で適切にスケジュールを管理していくしかないと心得ましょう。