サラリーマンが副業したら税金は?
企業勤めをしているサラリーマンが副業をするなら、企業から得られる給与収入に加え副業の収入も計上されることになります。
給与収入だけなら企業が『所得税』を計算して給与から天引きしているので、納税を意識することはあまりありませんが、副業を行う際には一定の条件を満たすと自分で確定申告を行って納税していくことになります。
税法は複雑ですが、所得税の理解を深め、副業収入をより多く手元に残していけるようにしましょう。
収入と所得の違い
収入に関する税金は『所得税』になりますが、この『所得』が意味するところは「収入から必要経費を差し引いた金額」となります。
副業を行う際には個人事業を営む上でさまざまな経費が発生しますので、仮に収入が一定であっても経費額が違えば所得もそれに応じて変動します。
所得税は所得にかかる税です。経費を確定申告の際に正しく申告することで所得税を抑えることができますので意識しておきましょう。
榎本希
会社員が副業した場合、その副業がアルバイトなどの給与所得になるか事業や単発での仕事などの場合や不動産賃貸などで得た所得か等により、その計算は変わってきます。
給与の場合は額面そのものが所得ですが、事業所得や雑所得や不動産所得などの場合には手にした報酬がそのまま所得になるわけではありません。
手にした報酬からその報酬を得るためにかかった費用を経費として引いた金額が所得ということになります。
あなたの所得区分はどれ?
所得と言っても働き方と収入源の性質はさまざまです。自分の所得が何に分類されるのかを把握できるようにしましょう。
税法上の所得は10種類
税法上10種に分類された所得はまず恒常性所得・臨時所得・その他の所得に区別されます。
恒常性所得のうち資産性所得にあたるのは以下の3種です。
- 預貯金の利子や合同運用信託の収益分配などの『利子所得』
- 株主や出資者が法人から受ける利益の配当や余剰金分配、基金利息や投資信託の収益分配といった『配当所得』
- 不動産の地上権・地役権などの物件と船舶・航空機貸付による『不動産所得』
次に勤労性所得にあたる『給与所得』と『退職所得』、資産性所得と勤労性所得が結合したものとして『事業所得』と『山林所得』があります。
他に臨時所得として、地上権・貸借権の譲渡に係る『譲渡所得』と、クイズの賞金や生命保険の満期一時金などに係る『一時所得』、これらに含まれない「その他の所得」として『雑所得』があり計10種の所得が定められているのです。
給与所得とは
上記10種の所得のうち、副業をするサラリーマンが特に理解しておきたい所得の一つが『給与所得』です。
給料やボーナスに加え、残業手当・家族手当・住宅手当などの各種手当も課税対象になります。
ただし給与所得のうち、一定金額以内の通勤手当や業務上必要な資格取得のための学資金などは非課税です。
これらは本来与えられるべき給与に加算して与えられる限り非課税ですので、給与を減額した上で与えられる手当なら課税対象となります。
また、所得が本業の給与所得だけでかつ2000万円以下なら『源泉徴収』として企業が納税しますが、副業でダブルワークを行った場合、2社以上からの給与収入があると個人で確定申告をする必要があります。
事業所得とは
副業を行う際には収入が給与ではなく『請負契約』を行う事業などから生ずる場合がありますので、これも抑えておきましょう。
『事業所得』とは事業を営む上で生ずる所得のことを言います。
事業の売り上げ金額の他に、事業上の権利収入や不用品の売却代金なども含めて「総収入金額」と言い、ここから各種の必要経費を引いた額が事業所得として計算されます。
もし、『青色申告』を行えば最大65万円の『青色申告特別控除』が受けられます。この場合は必要経費から更に控除額を差し引いた額が事業所得税として課税対象になります。
雑所得とは
『雑所得』とは所得税の他の9種類に含まれない所得を言います。副業を行う人がこれに該当する収入を得る場合があります。
雑所得にあたるものの典型的な例としては以下のものです。
- 著述家や作家以外の人が受け取る講演料や放送謝金
- アフィリエイト収入やインターネットオークションの売金
- 先物取引やFXなど店頭デリバティブ取引に関わる所得
- 年金や恩給などの公的年金
榎本希
税法上の所得は10種類に区分されています。
・給与所得(給与・賞与など)
・事業所得(事業から生じる所得)
・不動産所得(不動産屋土地の貸付等による所得)
・山林所得(山林を伐採して売ったりした場合の所得)
・利子所得(公社債の利子や信託の収益分配などから生じる所得)
・配当所得(株式配当などから生じる所得)
・退職所得(退職によって受ける所得)
・譲渡所得(事業用の固定資産や家庭用の資産などを売った所得)
・一時所得(クイズの懸賞金や満期保険金などの所得)
・雑所得(公的年金や原稿料や印税や講演料など。他の9種類の所得のどれにも該当しない所得)
課税所得をシミュレーションする方法
課税される所得額のことを課税所得と言います。
上記の10種の所得をそれぞれ計算して合計した金額から、特定の控除額を差し引いた金額が『課税される所得金額』となります。
副業をするにあたって必要な知識として、給与所得・事業所得・雑所得の計算方法を見てみましょう。
給料の課税所得
給与所得は給与収入から『給与所得控除』または『特定支出控除』を差し引いた金額となり、これが課税所得となります。
国税庁による給与所得控除の速算表は以下の通りです。
給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
180万円以下 | 収入金額×40.0%
65万円に満たない場合には65万円 |
180万円超 360万円以下 | 収入金額×30.0%+18万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20.0%+54万円 |
660万円超 1000万円以下 | 収入金額×10.0%+120万円 |
1000万円超 | 220万円(上限) |
以上の給与所得控除に加えて、確定申告が必要になりますが、業務上必要な書籍費・被服費・交際接待費も65万円を上限として『特定支出控除』と認められる場合があります。
出典:給与所得控除|国税庁
令和2年度分より下記のように変更になります。
給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
180万円以下 | 収入金額×40.0%
55万円に満たない場合には55万円 |
180万円超 360万円以下 | 収入金額×30.0%+8万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20.0%+44万円 |
660万円超 850万円以下 | 収入金額×10.0%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
副業の課税所得
請負契約で仕事を行う副業では、独立・継続・反復して行われる場合は事業所得として扱い、そうでない単発案件やアフィリエイト収入などでは雑所得として扱います。
事業所得は売上などの総収入金額から必要経費を引き、さらに青色申告特別控除が認められる場合は65万円を引いた金額が課税所得です。
雑所得は売上から必要経費を引いた金額が課税所得となります。
所得を合計し、基礎控除額を差し引く
以上の課税所得を合計して更に『基礎控除額』の38万円を差し引いた金額が、実際に課税される所得金額となります。
令和2年度分より基礎控除額が48万円に引き上げられます。
基礎控除額とは国民全てが等しく受けられる控除額であり、必要最低限の生活を保証する目的で認められている控除です。
他にも扶養家族や配偶者がある場合は更に『扶養控除』や『配偶者控除』を差し引いた額が課税される所得金額となります。
榎本希
令和2年度分より基礎控除額が48万円に引き上げられ、給与所得控除は55万円に引き下げられました。
また、青色申告特別控除も原則は55万円となり、e-Tax利用などの要件を満たした場合には最大65万円の控除が受けられます。
この変更に伴い給与所得控除の控除額も変更になり、上限は1000万円超え220万円から850万円超えで195万円となりました。
税金をシミュレーションしてみよう
ここまでは課税される所得金額を見てきましたが、次に実際の所得税額を計算することを考えてみましょう。
所得税の税率と控除額
所得税は累進課税制をとっていますので、所得が多くなるほど税率が高くなります。
所得税額は、課税される所得金額から基礎控除などの控除を差し引いた金額に、税率を掛けて対応する控除額を差し引いて算出されます。
以下の課税される所得金額と税率・控除額の対応速算表を参照してください。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5.0% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10.0% | 9万7500円 |
330万円超695万円以下 | 20.0% | 42万7500円 |
695万円超900万円以下 | 23.0% | 63万6000円 |
900万円超1800万円以下 | 33.0% | 153万6000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40.0% | 279万6000円 |
4,000万円超 | 45.0% | 479万6000円 |
参照 国税庁 所得税の税率
給与所得500万円、副業所得100万円の場合
では例として、既に所得は先述の表を参考に計算しているものとして、給与所得500万円、副業所得100万円、扶養控除など特別な控除がなく白色申告の場合の所得税を考えてみましょう。
この場合「課税される所得金額」は給与所得と副業所得を足した金額から基礎控除額の38万円を引きますので562万円です。
令和2年度分より基礎控除額は48万円になるため、552万円です。
この金額は「330万円超695万円以下」ですので税率の20%を掛けて112万4千円、ここから対応する控除額の42万7500円を引いて69万6500円がこの例で課税される所得税額となります。
令和2年度分より課税される所得税額は67万6500円となります。
榎本希
給与所得控除の引き下げ、基礎控除額の引き上げなどの変更はありましたが、所得税率については変更はなく従前のままとなっています。
副業が事業であり、青色申告を行っている場合には2か所以上から給与をもらう場合よりも節税効果があります。
例えば、本業所得が500万円、副業所得が100万円であった場合、副業所得が給与所得であれば合算した600万円-給与所得控除55万円を引いた金額である545万円から基礎控除額48万円を引いた497万円が所得ということになります。
その他の控除がないと仮定した場合、この金額に税率を掛けます。
税率は20%で控除額は42万7500円となりため、所得税は56万6500円となります。
では、副業が事業所得かつ青色申告でe-Tax利用だとします。
副業所得は経費を引いて100万円とします。
このケースでは
本業の給与所得500万円-給与所得控除55万円+副業所得100万円-青色申告特別控除65万円=480万円となります。
ここから基礎控除額48万円を引きますので432万円が所得となります。
この金額に税率を掛けます。
税率は20%で控除額は42万7500円と同様ですが、所得が給与所得の場合より少ないため、所得税は43万6500円となり、13万円の節税になります。
経費によっては更に節税となります。
まとめ
税制は複雑で、認められる経費や所得の区分を自分で考えていくのは難しい作業です。
しかし、しっかりと経費計上して控除も意識していくことで所得税は抑えられます。手元に残せておけたはずの売上を手放すことがないよう、税制の勉強も進めていくと良いのではないでしょうか。